かって世界中から礼賛を浴びた日本型経営。そこには、いろいろな要素が含まれますが、その中で日本型経営の根幹を支えてきたのが日本型人事システムです。「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」という日本型人事システムの三種の神器により、日本企業は組織と社員との間に強固で安定した関係を築き上げていました。
仕事以上に、まずは人間(社員)本位の視点での人事システムを組み立て、組織を運営してきました。
当時の欧米企業にしてみると、組織が上手く運営され業績も上がっているという事実を除けば、非常に不可解で不思議な人事システムと目に映っていたようです。
記事内インデックス
・強固な関係から、脆く危うい関係へ
・社員満足度の視点、エンゲージメントの視点
・求められるマネジメント、リーダーシップの変革と強化
強固な関係から、脆く危うい関係へ
しかし、90年代初めのバブル崩壊とともに、日本企業の業績は低迷していきます。失われた10年(20年)への突入です。その景気後退期において、成長経済が前提となっていた日本型人事システムも次第に行き詰まり、いろいろな矛盾を抱えるようになります。
この局面にあって、広く台頭してきたのが欧米型の成果主義型人事システムです。人事のパラダイムシフトです。ここに至り、日本の会社組織と社員の関係は一気に流動化、変質することになりました。それまで日本的経営の中で培われてきた強固で安定的な関係が、脆く危うい関係、希薄な関係へと変貌するターニングポイントになりました。
成果主義型人事では、従来の人事三種の神器はむしろ否定されがちになりました。人間本位から仕事本位の人事システムへ、人事フィロソフィーの転換に伴うギャップ解消の動きです。欧米の成果主義型人事システムを忠実に再現しようとした企業ほどその傾向は顕著でした。
・終身雇用の実質的な廃止 ⇒ 人材の流動化を促進
・処遇機軸のシフト、Pay for Performance ⇒ 賃金の流動化
・年功序列の打破 ⇒ 年齢、在籍年数を問わない実力主義
そうした大きな人事面での変化は、会社組織と社員に、どのような新たな関係をもたらしたのでしょうか?会社ごとの違いはありますが、総じて言えるのは、それまでのとの比較して、関係の希薄化でした。会社組織へのロイヤリティの低下でした。この人事のパラダイムシフトが、会社組織側からの一方通行的に進められ、会社組織と社員との間に線が引かれたと感じる向きが少なくありませんでした。
社員満足度の視点、エンゲージメントの視点
人事のパラダイムシフトは、もちろん会社組織と社員の関係希薄化を目指したものではありませんが、一種の副作用として、会社組織と社員との関係希薄化が結果的に進んでしまいました。景気変動に伴うその時々の会社業績により、この希薄化した関係が表面化したり潜在化したりすることがあったものの、この関係状態は今日においても引きずっていると言えます。
もちろんこうした希薄な関係は、会社組織にとっても好ましくないことは明らかです。このため、人事部門を中心に初期の成果主義の見直しや人間本位の制度へ少し舵を切り直し修正を行う動きも出てきました。色々な試行がなされましたが、わかりやすい例で言えば、社員満足度調査やエンゲージメント調査の実施です。
社員満足度という言葉から、ややもすれば社員迎合のような姿勢とも映るケースもありましたが、目的は会社組織と社員との新たな強く良好な関係を再構築することにありました。関係の再構築のために、社員満足度やエンゲージメントの視点から、組織の最適化、会社組織と社員との新たな関係の再構築を目指しました。最近では、言葉自体を見聞きする機会が減りましたが、「組織活性化」を標榜することも同じ方向にあります。
元来、会社組織は、その成立段階において、何らかの事業目的を達成するために設立されています。その事業目的を実現するために人が社員として集う。ここにおいて、本源的な主従関係、パワー関係が生じます。このことは、極めて自然な理です。しかし、一方的な関係が是かと言えばそれは否です。未成熟な社員と圧倒的に成熟度の高い会社組織という関係状態であるならば、そうした構造式も成り立ちます。しかし、成果主義型人事システムは、社員の自立を前提としています。
自立性の高い社員(成熟度の高い社員)が満足できる状態は何か、その満足を得るために社員は、組織はどのように行動すべきなのか。この時期、盛んにおこなわれた満足度調査やエンゲージメント調査の本質は、こうした問いを双方に投げかけ、双方がインタラクティブに働きかけながら、ベストな会社組織や働く場を実現することにあったと言えます。日本型人事システムの時代とは異なる会社組織と社員の強固な関係を改めて構築していこうというものです。
求められるマネジメント、リーダーシップの変革と強化
そうした新時代の関係構築のために、マネジメント職やリーダー職(管理職)には、それまでとは違う、そしてそれまで以上に重責が求められるようなりました。
マネジメント方法、リーダーシップの変革です。
旧来的な官僚型組織やマネジメントの場合は、仕組みとして会社組織と社員の関係が出来上がりますが、日本型人事システムからの脱却を始めた時、既にそうした官僚型の組織、マネジメントでは効果を期待することが難しくなっていました。
同時に、時代は変化の時代になっていました。ビジネス環境が変化し続ける中で、中央集権的にすべての選択、決断を集中させることは、不可能でありビジネススピードの阻害以外の何物でもなく、ビジネス的には通用しません。個々の社員が、それぞれの現場の中で即時に判断を下すことが必要になります。
そのためには、各現場における社員が自立できた成熟した社員であることが必要条件となります。この社員の自立や成熟を促し、そうした社員が上手く組織目標の実現とリンクしていくためには、旧来のマネジメントやリーダーシップでは上手く機能しません。新しい目指すべき関係実現、業績実現のための手法や取り組みが要求されます。
このため、マネジメントやリーダーの役割は非常に大きなものになりました。同時にやり方も、旧来的な組織、マネジメントでは効果を期待できません。さらに、社員の就労価値観も様変わりし、多様化しています。ビジネス環境もどんどん変化していきます。さまざまな考えの社員を変化する仕事の環境の中で、状況に応じて最適な方向へ機敏に導いていく。マネジメント、リーダーが直面する難しさは日々増していきます。
マネジメント、リーダシップのシフトチェンジは時代的要請、と言っても過言ではなくなりました。
この時代的な要請に応えるためには、日本型人事システムの中に盛り込まれていた教育、育成の仕組みや内容も自ずと変える必要が出てきます。さらに一歩先を行く人材育成が必要となります。言うは易しですが、これはそれまで染みついたことを、当該社員だけではなく、経営陣をはじめ組織全体に変えさせることを意味する、非常に難しいシフトチェンジになります。しかし、ここを変えなければ、新たな会社組織と社員との良好な関係が実現しないのも事実です。
こうしたマネジメント、リーダーシップの変革、強化には、画一的な入れ込み教育は、なかなか功を奏することができません。管理部門の人事、研修部門だけで担える問題でもありません。効果的なマネジメント、リーダーシップを求められる裾野も広がってます。現場のフロントラインの管理職、さらに非公式なリーダーへも求められることになります。
何年もの間、管理職・リーダーのマネジメント(リーダーシップ)教育が、社員教育、研修システムの最重要テーマに君臨し続けるのは、こうした理由です。その重要性を誰もが認識しながら、満足できる状態には至ってないということの裏返しかもしれません。結果的に、現場への責任の丸投げになり、事実上、諦めてしまっている会社組織もあるかもしれません。
しかし諦めることは、会社組織と社員の関係を放棄し、会社組織の継続的な成長を捨てることになります。それでも外部の景気動向次第で問題化しないこともあるかもしれません。しかし、今以上にはなりえないことは覚悟するしかありません。
それでは、どのようにマネジメント、リーダーシップを変革、強化するのか?
このブログサイト「ポケットの中の人事コンサル」では、会社組織と社員との関係がテーマとなっています。とくに珍しいテーマではありません。そもそも人事の仕事は、「会社組織と社員との関係を安定的に最適化する」ことです。本サイトでは、良好でかつ強固な新しい関係を再構築するために、玉石混交ながらも、必要な参考情報やヒントを継続的に記事にしています。マネジメントサイドの方だけでなく一般社員の方、あるいは就業前の学生を含め、お役に立てれば幸いです。
通勤の電車の中やちょっとしたスキマ時間に、そっとポケットからスマホを取り出し、自分なりに咀嚼して、そして試行してみる。その繰り返しで、昨日と少し違うあなたが、居るかもしれません。