どんな場合でも、どんな状況でも、効果的で万能なリーダーシップを簡単に教えてほしい
別に笑い話ではありません。現実的に企業研修などの場では、今でもそんな声がたまにあがります。「どうすれば良いか教えてくれたら、その通りにやる。でも小難しいのとか、面倒なのは勘弁してほしい」。今のような時代に環境にあって、そんな都合の良い話があるわけありません。
ページ内INDEX
1. 行動理論からさらに妥当性の追求
2. コンティンジェンシーモデル
3. パス・ゴール理論
4. まとめ
リーダーシップ行動理論は、一種の規範的な行動を取ることで相応なリーダーシップの発揮が期待できるという考え方でした。しかしそれだけでは上手く説明できない現実も多くありました。現実を十分に説明するには、行動理論だけでは理論的な妥当性の幅がやや狭かったようです。より現実的な捉え方、有効なリーダーシップの要因の追及から、リーダーシップ理論は行動理論から状況適合理論へと展開がされていきました。
今回は、状況適合理論の中で、大きな影響を与えエポックメーキングとなった2つの理論を取り上げます。
1. 行動理論からさらに妥当性の追求
前述のように、リーダーシップ行動理論は、効果的なリーダーシップに有効な行動に着目することに主眼が置かれていました。しかし、リーダーの行動を観察していると、各理論で取り上げられていない行動でも有効なものが存在したり、取り上げた行動が機能しないケースがあったり、各理論で抽出した行動の混合型や中間型が存在することなども認知されていました。
こうした点から、理論展開として、新たな視点の付加が必要との認識が広がっていきました。それが、リーダーそれぞれが置かれる状況の違いを考慮することです。
効果的なリーダーシップの発揮には、特定のリーダー行動を行うだけでは不十分であり、それぞれの状況の中で最適行動を選択して、有効な行動を取っていくことが欠かせないという考え方です。
ここに至り、リーダーシップ状況適合理論が登場します。
現実のリーダー行動のより広い範囲について、理論的な妥当性を担保するような研究展開とも言えます。
なお、行動理論の研究の中で、状況への適合度合いが完全に捨象されていたわけではありません。状況との関係において、個々の行動の有効性について触れられることもありました。研究時期においても、行動理論と状況適合理論とは一部オーバーラップもします。ただ理論研究の中心としては、リーダーシップの構造解明の第一ファクターとして行動に注目が集まっており、そこの解明が主眼であり、状況部分がやや置き去りにされたと理解することが適切だと思います。
2. コンティンジェンシーモデル
コンティンジェンシーモデルは、1967年にFiedlerが提唱した条件適合理論の1つです。効果的なリーダーシップとは、リーダーの資質ではなく、状況に応じて選択実行する役割や行動を変えていく必要があるという考え方です。
Fiedlerは、以下の3つの状況変数を想定し、仕事中心型とメンバー中心型の行動スタイルがどのように機能するかを示しました。
状況変数1 リーダーとメンバーの関係性
状況変数2 仕事内容の明確性
状況変数3 リーダーがメンバーをコントロールできる権限の強度
次に、リーダーの人に示す寛容度をLPCという独自の尺度で測定しました。LPCは、最も苦手な同僚をどのように評価するかで測定され、苦手な同僚を好意的に評価するリーダーを高LPC、苦手な同僚を避けようとするリーダーを低LPCとしました。高LPCのリーダーは行動理論における人間、低LPCのリーダーは仕事に関心を示すとしました。
そして、このLPCと状況変数のマッチングがリーダーシップの有効性を決めるとしています。積算ではなく、あくまでもマッチング度を見ているのがポイントです。
たとえばリーダーの権限(状況変数3)が弱く、仕事(状況変数2)が曖昧で、メンバーとの関係(状況変数1)が良いの場合、LPCの高い人間中心型リーダーがよりよい成果を実現できます。
また、権限(状況変数3)が弱く、仕事(状況変数2)がルーティンで、メンバーとの関係(状況変数1)が好ましくない場合には、LPCの低い仕事中心型のリーダーの方が成果があがります。
3つの状況変数の組み合わせで、多くのケース分けができますが、少々、解釈は難しいような気がします。
簡単な状況設定に注目してコンティンジェンシーモデルを説明すると、リーダーシップの有効性は状況と適合的な関係に依存し、状況が好ましい場合にはメンバー(人間)中心型の行動を採用し、好ましくない場合には仕事中心型の行動を採用するとなります。
言葉を換えると、チームをコントロールしやすい時とコントロールしにくい時は仕事中心型、チームのコントロールのしやすさが平均的な場合にはメンバー中心型が有効になるということです。
これらの内容を要約して図式化したのが、下図です。状況の複合的な組み合わせは簡略的に省いています。
Fiedlerのコンティンジェンシーモデルは、詰め切れていない点やLPCの妥当性など色々な批判も受けましたが、後のリーダーシップ研究、状況適合の考えに極めて大きな影響を与えることとなりました。
3. パス・ゴール理論
パス・ゴール理論は、Houseが1971年に提唱した、リーダーシップ条件適合理論の1つです。この理論では、リーダーがメンバーをどのように動機づけ、満足させるかに関心を向けられています。そのため、はじめに「組織やチームがゴール(目標)を達成するためには、どのようなパス(道筋)を通らなければならないかを示すのがリーダーシップである」という考えを明確にし、展開されています。
パス・ゴール理論は、期待説(動機付け理論:別機会に説明予定)を下敷きに、「メンバーを組織ゴールに向かわせるには、そのゴールがメンバーにとって達成可能であること、その達成によりメンバーが好ましい成果を入手できる見通しが必要で、その見通しをつけるのがリーダーシップ」としています。そのために、ゴールまでのパスを示すわけです。
Houseは、まずリーダーのリーダー行動を指示型、支持型、参加型、達成指向型の4つに分類しました。
指示型
メンバーへの期待を明示し、仕事のスケジュールを設定、仕事の進め方を具体的に指示する
支持型
相互信頼に基づき、メンバーの考えや気持ちを尊重し、メンバーの希望に気遣いを示す
参加型
意思決定の際に、メンバーに相談し、メンバーからの意見や提案を活用する
達成指向型
チャレンジングな目標を設定し、実現のために全力を尽くすよう求める
更に、ハウスは、リーダーを取り巻く状況を、業務の明確さ、経営責任体制やチームの組織といった職場要因とメンバーの自立性、経験、能力といった部下特性の2つの側面でとらえ、行動がどのような状況において適合的であったかを示します。
リーダーの行動が職場要因や部下特性と適合、調和しない場合にはリーダーシップは効果的に発揮出来ず、リーダーの行動が職場要因や部下特性と適合、調和している場合に、リーダーシップの効果が高まる、と主張しました。
パス・ゴール理論は、リーダー行動と状況の関係を明らかにした事以上に、ゴールに至る道筋パスを明示することでメンバーを動機づけるとした点が大きな意義を持っていたと理解しています。その後の研究、そして現在のリーダーシップまでこの点は連綿と影響を与え続けています。
4. まとめ
行動理論から状況適合理論への展開過程と、状況適合理論の重要な二つの理論コンチンジェンシーモデルとパス・ゴール理論を説明しました。
リーダーシップ状況適合理論は、パス・ゴール理論の登場があまりにも衝撃的であり、完成形に近いためにその後の理論研究は進まなかったということを言われる方もいます。確かに、リーダーシップを説明する上でのフレームとしては、ほぼ出来上がったのかもしれません。しかし、フレームの中には未解決の事も残っており、その後の研究ではさらに細部にわたり勧められ今日のさまざまなリーダーシップの考え方に、強く影響を与え、つながっています。
次回は、状況適合理論に含められる他の注目理論について説明します。