(この記事は、鼓太郎と小夏の陽だまり 2014.9.25の記事を転載リライトしたものです。)
こんにちは、小夏です。今日が、このテーマの最終回です。
2004年の秋分の日が来た。
朝から、おとうさんとおかあさんは、そわそわと落ち着きません。
鼓太郎の朝散歩を早めに済ませて、車に乗り込みます。
「あの子、まだいるかなぁ」とおかあさん。
「どうだろう?一週間たってるしなぁ」とおとうさん。「もし、既にいなかったら、それはそれで、一足先に幸せになったんだと喜んであげよう」。
そしてホームセンターへ到着です。
鼓太郎をペット用カートに乗せて、ペットコーナーへ。
少し離れた所から「どう?まだいる?どきどきするね」とおかあさん。
「わからん。まだよく見えない」とおとうさん。
ショーケースの前について、「ん?どこだ?あれ、どっちだ?」。
実はこの時、柴犬はあたしともう一匹がいました。たぶん、あたしの姉妹だったはず。
「こっちの子。白足袋がはっきりしている子だよ」。
幸か不幸か、あたしはまだ行き先が決まってませんでした。
でもこの日は祭日ということもあり、すでに沢山の家族連れが来ていて、決まる子が多そうな予感がしていた。
あたしも新しいお家が決まるかな?決まると嬉しいなと思っていた。
この時のあたしは、朝ご飯を食べた直後で、うつらうつらと寝てました。
何か覗きこまれているような気配がして薄眼を開けてみると、なんか見たことあるおじさんとおばさん、そして神経質そうな雄の柴犬があたしをのぞき込むように見てる。
寝ぼけてて、ぼうっとしてたけど、あれ、なんか先週も同じような組み合わせの家族が来てたよね。
あたしが気に入ってた家族みたい。
またあたしに会いに来てくれたの?
おかあさんが店員さんを捕まえて、あたしを指差している。
なんだろう・・・。
「この子を見せてください。いや抱っこさせてください。でも、家には先住犬のこの子(カートに乗っている鼓太郎を指差して)がいて、相性をみたいんですけど、近づけて貰えますか?」
「いや、それはちょっと」。
「駄目なんですか」。
「はい」。
「どうして?」。
「もごもごもご」。
なんか店員さんが駄目と言う理由がよく分かんないと、面倒くさくなったのか、おかあさんは懸念していた問題の一番目を軽くすっ飛ばして、「じゃあ、それは良いから早く抱っこさせて」。
ん?鼓太郎との相性が一番の心配だったんじゃないのですか?
ショーケースのカギが開く音がして、「おいで」って店員さんがあたしを抱き上げた。
「こっちの子で良かったですか?」。
「はい」、とおかあさん消毒済みの手をすぐに出してきた。
あたしはまだ夢の中で、半分船を漕いでいる。
なんかわかんないけど柔らかい腕の中にすっぽりと収まった。寝心地いいかも。
「小っちゃいね~。ふわふわだね~。眠たいね~」とおかあさんは色んなこと言ってる。
おとうさんは、鼓太郎が暴れないように押さえつけるので手一杯で、あたしを抱っこできない。
でもおとうさんは、わかっていた。
おかあさんが抱っこしてしまった以上、この子はお家に来ることになることを。
店員さんは、脈ありの客と見たのか、あたしを売り込もうと、何でか分かんないけど急に鼓太郎のことを一所懸命誉め始める。おべっかですか?
「いやぁ、この柴犬は良い柴犬ですね。自分は、日保(日本犬保存協会)の仕事も手伝っているんですけど、この子は本当にバランスの良い柴犬ですね。顔つき、体型と申し分ないです。展覧会に出れば入賞できそうですよ。いやあ、それにしてもいい柴犬だ」。
おかあさんが、抱っこしているあたしを指差して、「この子はどうですか?大きくなったらきれいな良い柴犬になりますか?」と聞いた。
あろうことか、店員さんは「…….」、と何故か暫し沈黙。
ちょっとしてから、「ええ、…、まぁこの子も良い柴犬になりますよ。こっちの子(鼓太郎)ほどにはならないと思うけど」。
ちょっとちょっと、待ってよ!あなた店員でしょう?少しはあたしを売り込みなさい!あたしを誉めなさいよ!
「いやぁ、それにしても良い柴犬だ」と、あたしの気持ちを察せずにしつこく鼓太郎を褒める店員さん。
店員さんが鼓太郎を褒めている隙をついて、おかあさんがあたしと鼓太郎をご対面させた。
鼓太郎は、しつこくあたしの臭い嗅いでいたけど、特に怒らなかった。
それを見ておかあさんもおとうさんも安心したみたい。
でもこの時、おとうさんとおかあさんは気付かなかったけど、一瞬だけど、小さい声で鼓太郎唸った・・・。
ちょっと怖かった・・・。
「じゃあ、この子、家の子にします」とおかあさんが宣言。
あれ?おとうさんに聞いてないけどいいのとあたしは思った。
だけど、おとうさんは横でニコニコしてたんで、それで良いよという意味だと、あたしにもわかった。
併設の動物病院での健康チェックも異常なし!
でもね、このあとお家に来てからしばらくの間に、いろいろ病気が出たんだけど・・・。何を病院でチェックしていたのやら。
そうして、あたしはお持ち帰り用の箱に入れられて(箱入り娘です)、おかあさんの手に。
帰りの車の中で、鼓太郎があたしのことが気になるみたいで、箱に鼻先を押し付けて臭いを嗅ぎまくる。クンクン、ふがふがとうるさくて、落ち着いて寝られない。
でもそのうちに寝ちゃった。たまに箱を開けておかあさんが覗きこんでいた。
おとうさんは運転手なので、あたしを覗きこみたいやら触りたいみたいだったけど、お家につくまでお預けです。
そうこうしていうちに、「着いたよ~。今日から、ここがお家だよ」って箱が開いた。寝ぼけてたので、箱の下にうずくまってて、暫くあたしは出てこなかったらしい。
鼓太郎は、初めてお家に着いた時、箱からビックリ箱みたいにぴょんと出てきたらしいけど。
この時は、まだ名前はまだありませんでした。
帰りの車の中で、おとうさんとおかあさんが色々と相談してたみたいだけど、とりあえずは名無しのゴンベ(女の子なんですけど…)。
真っ黒な顔で、今は面影ないけど、間違いなくあたしです。寝ぼけてるのわかりますか?
たった一週間のあいだの急展開。でも、出会いは突然に来るし、出会った時にその後の運命は決まってたみたい。
かくして、あたしは終の棲家を2004年9月23日に手に入れました。
生まれてから46日目のこと。
今では、ずいぶん遠い昔になっちゃったね。