人事部門が使い分ける能力基準 キャリアマネジメントモデル

何故、あの人は出世し、この人が出世できないのか?

会社組織において、同じように優秀な成果を実現しているように見える社員なのに、昇進昇格場面で、何故か明暗が分かれることがあります。


昇進昇格した人は何か特別なコネでも持っているのか、昇進昇格ができなかった人は何か虎の尾を踏んでしまったのか、などとあらぬ疑いを持つかもしれません。そうしたこともあるかもしれませんが、まともな会社の人事部門では独自の人事哲学や論理に基づき、公正かつ公平に昇進昇格を行っています。

あなたが昇進昇格の結果に違和感を感じる場合、人事部門が基準とする社員能力の見方とあなたの見方とにギャップが生じています。

人事部門は、目的によって異なる能力基準を使い分けます。

その一例をわかりやすく示したキャリアマネジメントモデルをご紹介します。

インデックス
1. 人事目的により異なる能力視点
2. キャリアマネジメントモデル
3. 人事部門が取り組むべき課題
まとめ

 

1. 人事目的により異なる能力視点

人事部門は、組織(経営)と社員の関係性を高め、社員のベストを引き出し、組織力を最大化するために、社員のモチベーションやロイヤルティを高めようと、さまざまな人事施策(制度)を活用します。

そして、どの人事施策においても、何らかの動機づけ要因が含まれます。端的な例で言えば、労働の対価として毎月支払われる給料は、経済的な報酬を動機づけ要因としています。他の人事施策である賞与制度、退職金制度、勤怠管理なども、内容は異なりますが、何らかの動機づけ要因を含むことに変わりはありません。

目的を確実に実現すべく、人事施策は妥当な動機づけ要因が盛り込まれ、判断基準が設計され、そして運用されます。

前述の昇進昇格実現成果(業績)のケースでは、当然のことですが、人事部門では異なる能力視点を判断基準に用いています。簡単にまとめると下図のようになります。

図1 昇進昇格と業績評価で人事部門が使い分ける基準

このように人事部門は、施策ごとに目的実現のために、一般的にはいろいろな基準、能力基準を使い分けます。もちろん会社組織の考え方によって、それらの基準間の違いが大きかったり小さかったりはします。極端な場合、全て一つに集約されていることもあります。

2. キャリアマネジメントモデル

キャリアマネジメントモデルは、Ferenceらの実証研究から導かれた、キャリア開発の可能性を示すマッピングモデルです。

このモデルは、社員(人材)の「現在のパフォーマンス(業績)」「将来の昇進昇格の可能性」の二軸により構成される4つの象限に人材を当てはめて捉えていくものです。

図2 キャリアマネジメントモデル

4つの象限は、それぞれ次のような意味を持ちます。

STARS(スター)
現在(現職)において実現している業績が高く、将来的に異なる職務やポジションにおいても高いパフォーマンスが期待できる人材。
「伸びしろ、可能性」の大きな社員であり、より高いポジションへの抜擢登用や教育投資の効果が期待できます。

Solid CItizens(堅実な企業市民・社員)
現在(現職)において高い業績を実現しているが、将来や他の職務での高いパフォーマンスは未知数、あるいはあまり期待のできない人材。
優秀な社員ではあるが、これからの「伸びしろ、可能性」が比較的小さな社員と言えます。現在の業績実現で既に保有能力の多くを顕在化させていたり、あるいは既にキャリアプラトーに達していたり、志向性が固定化し柔軟性が欠如している可能性などの理由が考えられます。

Learners(学習者)
現在(現職)において実現している業績が見劣りするものの、将来や他の職務でのパフォーマンス実現が期待できる人材。
これからの「伸びしろ、可能性」が期待され、育成や成長機会などにより大きく化けることが期待されます。機会の付与によりパフォーマンス改善が進めば、STAR人材へと成長する可能性が高いと判断されます。

Dead Wood(枯れ木)
現在(現職)において実現している業績が見劣りしており、将来や他の職務でのパフォーマンス実現もあまり期待できない人材。

実証研究から導出されたモデルなので、現実的に多くの人事部門での運用結果を示したものといえます。少し古い研究ではありますが、現在でもこの状況はほとんど変わっていません。

キャリアマネジメントモデルに示されるように、現在のパフォーマンス実現と昇進昇格とで異なる能力基準が使い分けられているのがよくわかります。

しかしキャリアマネジメントモデルで触れられていないことがあります。それぞれの基準の中身です。もちろん、会社組織ごとに、仕事内容ごとに基準は異なりますので、そこは各会社組織での問題で、コンサルタントや人事企画の担当者が行うべきと言うことでしょうか。

一つだけ言うと、現在のようにビジネス環境が大きく変化する時代においては、この能力基準も適宜見直し修正が必要になるということです。よもや20年前と同じ能力基準で昇進昇格を進めていることはない、と思いたいところです。

キャリアマネジメントモデルは、社員を図の中にマッピングしていき、俯瞰的に人材オーディット(監査)をすることにも利用できます。社内の人材の状況を大局的に捉え、どのような施策を打つべきか、企画の前段階で活用すると効果的です。

3. 人事部門で取り組むべき課題

人事部門は優秀人材の確保と維持を目指します。キャリアマネジメントモデルで言うSTARLEARNERを見極め、重点的に教育や機会付与をすることは大切です。しかし、組織の維持発展には、これだけの人材では不足です。

SOLID CITIZENは、組織にとって大切な人材です。そして社員の大部分がここに該当します。キャリアマネジメントの考え方に傾注しすぎ、SOLID CITIZENをないがしろにしてしまうと組織は機能しません。組織が円滑に動き続ける上でこれら人材のモチベーションをどのように維持するかが運用上で大切になっています。

複線型の人事体系(専門職エキスパート系列)、昇進昇格機会の適正化などにより、SOLID CITIZENの意欲を維持、引き上げることはこれからの人材・労働力不足の我が国の会社組織においては、重要なテーマとなります。

まとめ

人事部門に籍を置く方でも、日々の業務に忙殺され自社の人事施策のコンセプトや哲学的な意味を考えていないかもしれません。昇進昇格制度と業績評価制度の基準の違いについても、「そういう制度なんだ」と深く考えていないかもしれません。

人事部門以外の方は、自社の人事がおかしいと批判するだけかもしれません。

どちらも人事の基本の考えを理解すれば、違う風景が見えてきます。

一度、関心のある施策について、その根底にある理念に思いを馳せてみましょう。批判的だった施策にも納得が高まります。そして、設計した人の熱く温かい思いが見えてくるに違いありません。

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