人が働く源泉、行動を喚起するエンジンとして機能するのは何か?そして、より仕事に前向きに取り組み続けるには何が必要か?
「あの人は、仕事へのモチベーションが高い(低い)」「仕事への意欲が高い(低い)」など、仕事をする場面ではごく一般的に耳にする言葉です。こうしたモチベーションの高い(低い)状態、仕事への意欲が高い(低い)状態をもたらすのが動機付けです。何となく感覚的に理解してはいても、なかなか上手く説明できない人が多いようです。
しかし、人事部門、管理職、個人を問わず、仕事をしたり組織の中で働く上で、こうした動機付けは、それぞれ大切な意義を持ちます。
この動機付け、モチベーションについて、多くの研究や実践の出発点ともなっているマレーの欲求リストを取り上げてみます。
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動機付けとは
欲求説と内容説
マレーの欲求リスト
動機付けとは
動機づけとは、人間の行動を引き起こし、それを維持しながら、一定の方向へ導く要因や過程のことです。動機付けは大きく分けると動因と誘因があります。
動因
人間の内部要因により行動が引き起こされるもので、欲求や要求とも呼ばれます。動因の中でも人間としての生存に不可欠な食事、睡眠、排泄などを生理的欲求、心理的に行動を促したり抑えたりする心理的欲求とに分けられます。
誘因
人間の外部要因により行動が引き起こされるもので、外部からの働きかけも誘因となります。また、動因があまり強くなくとも、誘因により行動は引き起こされます。
欲求説と過程説
動機付け理論の研究は、大別して2つの方向から発展してきた説があります。欲求説と過程説です。
欲求説
内容説とも呼ばれます。人間は、何により働くことに動機付くか、何に動機付けられるのか、その要因や内容に注目する考え方です。
過程説
文脈説、選択説とも呼ばれます。人間は、どのように動機付けられていくのか、個人の意図や関心がどのように動機付けに作用するのか、そのプロセス構造に注目する考え方です。
マレーの欲求リスト
米国の心理学者H.A.マレー(Murray, H.A.)は、人間の行動を喚起する要因として欲求という考え方により説明することを考え、1938年に欲求リストを発表しました。今から80年以上前のことです。しかし、現在もマレーの欲求リストは、姿は変えつつも、色々な動機付け理論や実践の中に継承されています。
マレーは、リスト化の中で、まずすべての欲求を2つに分類(生理的欲求、心理的欲求)し、そこから細分化しています。
生理的欲求(一次的欲求)
人間が生存して行く上で、不可欠な肉体的な欲求。
摂取に関連する欲求(吸気欲求、飲水欲求、食物欲求、感性欲求)、排泄に関連する欲求(性的欲求、授乳欲求、吐気欲求、排泄欲求)、危険回避に関連する欲求(毒性回避欲求、暑熱・寒冷回避欲求、傷害回避欲求)が含まれる。
心理的欲求(二次的欲求)
人間の心理的、内発的な欲求で、社会生活を営む上で必要な欲求。
詳細は後述のリスト参照。
なお発表後、研究の進展に伴い複数の版があるようでリスト化された欲求の数が微妙に異なるものがあります。
A. 物質的な対象物と関係する欲求 | ||
1. | 獲得(acquisition) | 物や財産を得ようとする欲求 |
2. | 保存(conservation) | 物を集め、保管しようとする欲求 |
3. | 秩序(orderliness) | 物を整然と片付け、系統立てようとする欲求 |
4. | 保持(retention) | 物を所有、貯蔵しようとする欲求 |
5. | 構成(construction) | 物を組み立て、構造的に築こうとする欲求 |
B. 権限、地位などに関係する欲求 | ||
6. | 優越(superiority) | 優位な立場に就こうとする欲求 |
7. | 達成(achievement) | 困難なことを上手く実現しようとする欲求 |
8. | 承認(recognition) | 人から認められ褒められたいという欲求 |
9. | 顕示(exhibition) | 自分を強く人に印象付けたいという欲求 |
10. | 不可侵(inviolacy) | 他から侵されずにいたいという欲求 |
11. | 劣等回避(avoidance of inferiority) | 劣等感を感じる事態を避けたいという欲求 |
12. | 防衛(defensiveness) | 非難や攻撃から自己を防衛しようとする欲求 |
13. | 中和(counteraction) | 成功で失敗や挫折を埋めようとする欲求 |
C. 力関係に関係する欲求 | ||
14. | 支配(dominance) | 人に影響を与え、統制しようとする欲求 |
15. | 恭順(deference) | 優れた人を認め、進んで従おうとする欲求 |
16. | 模倣(similance) | 他人を模倣しようとする欲求 |
17. | 自律(autonomy) | 自らの主体性を重視しようとする欲求 |
18. | 反動(contrariness) | 人と異なる独自性を示そうとする欲求 |
D. 障害を与えることに関係する欲求 | ||
19. | 攻撃(aggression) | 人を攻撃しようとする欲求 |
20. | 服従(abasement) | 自らを卑しめ、非を受け入れようとする欲求 |
21. | 批判回避(avoidance of blame) | 他からの批判や非難を避けようとする欲求 |
E. 愛情に関係する欲求 | ||
22. | 親和(affiliation) | 人と親しく、良好な関係を作ろうとする欲求 |
23. | 拒絶(rejection) | 人を差別し、排除しようとする欲求 |
24. | 養護(nurturance) | 人を慈しみ、助け、保護しようとする欲求 |
25. | 求援(succorance) | 人に援助や同情を求めようとする欲求 |
F. その他の欲求 | ||
26. | 遊戯(play) | 楽しみのために娯楽を求めようとする欲求 |
27. | 求知(cognizance) | 探索や学習で好奇心を満足させようとする欲求 |
28. | 解明(exposition) | 物事や問題を解明し、説明しようとする欲求 |
簡単に丸めた表現にしたので少しわかりにくいかもしれませんが、イメージはつくかと思います。
リストをざっと眺め、自分自身(あるいは部下や社員)にとって動因となっている欲求を探してみましょう。
動機付けは、最近の人事や個人の働き方の中で非常に重要度が高まっています。自分自身で中長期的なキャリアを描くため、人事であればリテンションを高めたり組織を活性化を図るため、管理職であれば部門業績をたかめるためなど、さまざまな目的に直接、間接的に影響します。
何回か動機付けについての記事を掲載しますので、日頃の活動について考えるときにご活用ください。
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