職務遂行能力の構造 氷山モデル

仕事で高いパフォーマンス(業績)を実現するためには、さまざまな能力が求められます。

その一方でこうした能力には、さまざまな多くのものが含まれ、その全体像は理解しにくくなっています。結果的に、個人や社員の置かれている実情とマッチしない的外れな能力開発(社員教育や自己啓発)に注力していて、せっかくの努力が実を結んでいないケースも見られます。

「こんなに教育しているのに、こんなに学んでいるのに、なぜ、仕事のパフォーマンスがアップしないのか!?」

⇒「それは、開発に注力している能力が違ってるから!」

人が持ちうる学習の機会や時間そして費用は有限です。開発すべき発揮すべき能力がピント外れであれば、効果はなかなか現れません。現在の仕事、そして自分の現状を客観的に見極め、その開発を効果的に進めるためには、まず職務遂行に必要な能力の全体構造を理解しておくことが大切です。

仕事のパフォーマンス実現に関わるさまざまな能力の全体像を構造的に示した氷山モデルについて、その内容や特徴、意味することなどについてご紹介します。

インデックス
1. 職務遂行能力の構造 氷山モデル(Iceberg Model)
2. 意識上の能力、意識下の能力
3. 仕事の難易度やレベルで、必要な能力の構成が変わる
4. 開発効率、コスパの良いターゲットとなる能力は?
5. まとめ

1. 職務遂行能力の構造 氷山モデル (Iceberg Model)

氷山モデルは、心理学者D.C.マクレランドが提唱した、人間の仕事に関わる能力を構造的に説明する考え方です。ざっくり言うと次のような内容です。

「人間の能力は、氷山のようなものである。氷山は水面上の目に見える部分よりも、目に見えない水面下の方が何倍もの大きさを持っている。人間の能力もこれと同じで、外から見え把握が容易な能力は、全体の能力の一部分にすぎず、その大部分を占める能力を把握するのは容易ではない。」

ものすごくシンプルですが、非常に納得感があります。逆にこの説明・説得力の高さ、応用や解釈のしやすさから、その後、多くの研究者やコンサルタントによりコンセプトが追加されたり、応用・加工・転用されています。このため、内容の異なる氷山モデルが巷に存在しており、書籍やネットで調べても混乱することがあります。

人や文献による違いはありますが、人材の能力に関わる氷山モデルは、現在、おおむね下図のように示されます。三角形全体を氷山、点線が水面と考えてください。

氷山モデル:職務遂行能力の構造

氷山の上部から下部に向かって、より人間の内部的な側面、心理的な側面へと深度が増していきます。

基本的動機/性格特徴 仕事をする動因、個人の性格特性
価値観 何を重視するか、大切にするか、価値を置いているか
役割/自己イメージ 果たすべき役割や自己の姿に対する認識
行動/思考 仕事場面での取られる行動や思考
知識/技術 仕事に関わる知識、経験、ノウハウや技術

また、これらの各段階は独立したものではなく、それぞれ関連し影響を与えています。特に水面下の部分は、その影響と関連性が強くなっています。水面上の知識技術は、自分以外の外部から変成を促す影響を受けやすくなります。

なお、マクレランドの言う把握しやすい(見やすい)能力と把握しにくい(見えにくい)能力は、現在では、この5段階の中でさらに細分化されますが、本稿では全体像の把握を目的としていますので、ここではその細分化された内容については割愛しています。

2. 意識上の能力、意識下の能力

氷山モデルでは、水面が知識技術と行動思考の間となっていますが、実際には、もう一つの線があります。人間の意識の上と意識の下という視点による線です。ここは、価値観と基本的動機・性格の間となります。

価値観は、「人が何を重視するか、何に価値を置くのか」であり、人の意識に基づいて形成されています。自分自身で認識できるものです。

一方で基本的動機・性格は、個人によっては部分的に認識されていることもありますが、多くは意識の下、潜在意識の範囲となります。自分自身でもよくわからない、認識できないものです。「なぜ、自分がこうした行動を取るのか、好むのか?」について、説明できない場合、こうした基本的動機・性格が影響していることがあります。

少し視点を変えて言えば、このことは、価値観より上の能力は、人間が変えようと思えば、意識ができる範囲にあるため、比較的、変えることが可能な能力であり、基本的動機・性格は、意識が届かない自分でよく認知できない部分のため、簡単に変えることは出来ない能力となります。

つまり、価値観から上の部分の方が、能力開発や学習がしやすいということになります。

3. 仕事の難易度やレベルで、必要な能力の構成が変わる

それでは、仕事のパフォーマンス実現にどの能力にすべきなのでしょうか?氷山モデルの考え方で言えば、水面下になるほど重要となりますが、これがすべての人やすべての仕事について共通かと言えば、そこは少し違います。個々人の状況に照らして考える場合には、少し応用的な解釈を加える必要があります。

仕事の内容(難易度・レベル)に注目した応用と解釈。

どの人にとっても、どの仕事にとっても、どの役職階層にとっても、開発強化すべき能力が共通ということはありません。担当する仕事の難易度やレベル、役職階層が上がるほど、水面下の能力の比率が一般的には高まる傾向にあります。下図は、そのイメージを示したものです。

図2 仕事の難易度と必要能力の構成

わかりやすい例として、新卒入社社員の時の仕事を考えてみましょう。この段階の仕事は、業務知識を習得し高めるところから始まります。上司の管理や指示、業務マニュアルに沿って、与えられた仕事を自分で一通り仕事を最後まで遂行できるようにする段階です。そして、この時期に与えられる仕事は、業務知識を確実に習得し実行することで、仕事のパフォーマンスは上がっていきます。つまり知識技術に依存する仕事な訳です。

しかし、中堅社員になり上位の役職になるに従って、仕事の難易度は高くなっていきます。不確実な状況の下で自らでの判断を求められたり、自分だけでは完結しないような大きな仕事だったり、他者との交渉事やマネジメント要素が入ってきたりします。業務の知識技術だけでは対応しきれないケースが増えていきます。水面下の能力が強く要求される仕事な訳です。

このように仕事の難易度があがるにしたがって、水面上の知識技術から水面下の能力へとウエイト配分が変わって行きます。

なお、誤解されることがありますが、仕事の難易度やレベルが上がるにつれ、知識技術が不要になると言う意味ではありません(現実的にはそのような社員を見かけることは多いのですが・・・)。あくまでも、必要能力のウエイトが変化するだけで、知識技術の絶対量は仕事の難易度が上がれば当然のことながら増えていきます。その水面上の知識技術の要求スピード以上に、水面下の能力の要求スピードの方が速いということです。

また容易に想像できると思いますが、専門職(エキスパート職)や技術職の場合には、少し様相が変わります。仕事自体の特性が違います。水面上の能力の比重が他の仕事に比べ、高くなるのは明らかです。もっとも日本の会社のジョブデザインを見ると、専門職であっても上位の役職階層になるにしたがってマネジメント要素や対外折衝要素などが含まれて来ることが多く、この場合には水面下の能力への要求も高くなります。

こうした仕事と能力構成のシフトは、あなたの会社の能力評価制度や人材育成体系の中、あるいは昇進昇格制度の中にも見られるのではありませんか?

4. 開発効率、コスパの良いターゲットとなる能力は?

それでは、どの能力を開発のターゲットに考えるべきでしょうか?開発・学習の効率、コストパフォーマンスと言う側面から考えてみます。

図3は、氷山モデルの各段階の能力をいくつかの視点で、その対応性についてみたものです。もちろん、仕事内容や個人の成熟度、取り巻く状況によって違いはあります。あくまでも、平均的な話です。

図3 開発のターゲットとすべき能力

例えばパフォーマンスへの影響力とは、開発が進んだ場合、パフォーマンスに与える影響の度合いです。知識技術から行動思考と右へ行くほど影響力が強いという意味です。以下、ここでは5つの視点ごとに対応範囲を示してみました。

これらの対応範囲の最大公約数的な能力(図中の線の被りが一番大きい部分)は、行動思考知識技術となります。

つまり能力開発の効率が最も高い、開発・学習効果の期待できるのが「行動思考」と「知識技術」です。そして、仕事の難易度や状況に応じて、より右側部分の能力開発を加えて行くことが効率的となります。

一度、ご自身が所属する会社の能力評価体系や能力開発(教育)体系を俯瞰的に見てみてください。骨組みとして、仕事の難易度(役職)に応じて、知識技術から行動思考、さらに水面の下部へ移っていくような設計になってれば、あなたの会社の施策として、開発効率の良い理に適ったものになっていると言えるでしょう。

5. まとめ

氷山モデルは、仕事のパフォーマンス実現に関わる能力の全体構造を示したものです。水面下にある能力の方が、水面上の能力よりも大きく、そして見えにくい、把握しにくくなっています。同時に開発や学習のしやすさ、仕事や状況に応じて変化する必要能力を示唆します。

人事部門や管理職の方であれば、能力評価制度など各種の制度施策の設計や運用、社員の教育育成やコーチングなどに活用できます。

個人であれば、自身のキャリアプランや学習計画などに活用できます。自分の現状、仕事を棚卸して、これからのアクションを考える機会にしてみてはいかがでしょうか。

 

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